グリッティパレス,ラグジュアリーコレクションホテル,ヴェニス
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感情を刺激
印刷職人、写真家、製本職人
パオロ・オルビの職人としての歩みは示唆に富んでいます。ベニスの仲間達のために製本を始めたオルビは、自身の腕を磨き、時間をかけて事業を拡大してしっかりと軌道に乗せ、ベニスの主要な図書館などにも活動の場を広げてきました。
アルベルト・ヴァレーゼは、古代の書物やトルコの旅を通じてトルコのエブル (トルコの芸術の技法) の秘伝の技やスキルを学びました。ヴァレーゼは自身の工房で、ベニスの独特の魅力からインスピレーションを受けたスタイルを開発しました。
10年来の芸術写真家であるヴィットリオ・パヴァンが現在力を入れているのは、1940年代以降のベニスの輝かしい過去の写真30万点以上を収めたカメラフォトアーカイブです。パヴァンのアーカイブでは、ベニス映画祭に出席する華やかな映画スターから、ビエンナーレに参加する世界的に有名なアーティストまで、ベニスの歴史のありのままの姿を垣間見ることができます。
パオロ・オルビ
ベニス生まれ
ベニス中心部生まれで、ベニスに残る数少ない皮革製本職人の1人であるオルビは、ベニスが職人と想像力の街であることを証明しています。オルビはこれまでずっとベニスで仕事をしており、自分の作品が彼のブティックでしか手に入らないことを誇りに思っています。
パオロ・オルビ
ベニスからのインスピレーション
若い頃は風景画家でした。その時の創作力を今の仕事に生かしています。私のクラフトに関係するすべての要素はベニスからインスピレーションを受けています。
パオロ・オルビ
メカニックのメンタリティ
私の仕事で最も満足を感じるのは、決して飽きることがないということです。仕事に来るのが楽しみです。好きな仕事を選んだのですからね。
私の父は私が普通の仕事に就くことを願っていましたが、私にとってそのような生活は悪夢だったでしょう。私は自分なりのやり方で自己表現ができる人生を望んでいたのですから。創作意欲が強かったため、オフィスで働くことは不可能だったはずです。
製本を選んでいなかったら、整備士になっていたに違いありません。今の仕事でも、整備士のように細かい作業を大切にしています。ベニスとこの土地のガラス産業に触発されて、ガラスを使った本の表紙に自分の技術を生かすことができました。
パオロ・オルビ
現在の世界において職人技が重要なのはなぜでしょうか。
職人技が重要なのは、他の方法では日の目を見ることのないアイデアを実現するからです。芸術家なら、たとえば画家のように、家族や友人と共有し鑑賞できる作品を創作します。私たち職人には、美しいものや芸術的なものを、願わくばこの先何年も喜んで使ってくれる人の手に届ける力があります。
私から若い職人へのアドバイスは、恐れることなく自分の願望に従うこと。そしてなによりも、謙虚であることを学ぶことです。私は大工仕事から機械の構造まで自分の分野に関連するあらゆることに興味があります。なぜなら、異なるアイデアをうまく融合させることで、工芸をまったく新しいレベルに高めることができるからです。想像力とスキルがあるなら、新しく発見した題材と持ち前の好奇心を組み合わせてみるといいでしょう。
アルベルト・ヴァレーゼ
水面に絵を描く
アルベルト・ヴァレーゼが習得したマーブリングペーパーの技術は、1300年代に中国や日本で誕生しました。その後シルクロードを経由してペルシャやトルコに伝わり、オスマン帝国時代のトルコで大きく発展し「エブル」(トルコ語で「雲」の意味) と呼ばれるようになったのです。
アルベルト・ヴァレーゼ
クリエイティブな旅
私が最初にマーブリングに興味を持ったのは、19世紀にフランスで出版された本がきっかけでした。それから1年以上かけて、古代の技法を理解しました。最初の店をオープンした1977年当時、私の手法を実践していたのは私だけ。最初は紙に写し取っていましたが、その後シルクや立体に移っていきました。
アルベルト・ヴァレーゼ
ベニスはあなたの作品にどのような影響を与えましたか?
色彩、穏やかさ、静けさは常に私のインスピレーションの源です。私はベニスの職人一家の生まれで、祖父はここに鋳物工場を建てました。その工場には今でも私たち一家の名前がつけられています。私が育ち、友人を作り、芸術家として成長したのは、サント ステファノ広場とサン サムエーレに挟まれた地区です。今でも自分のボートに乗ってラグーンの様子をただ眺めるのが好きです。ベニスに住んでいるおかげで、芸術的価値の高いものづくり技術の中心にいることができるのは、とても幸せなことです。
この仕事で特別だと感じるのは、すべてがユニークで、すべて手間をかけて準備しなくてはならないということです。「あれが何滴、これが何滴必要」と書き留めていたとしても、天候、湿度、気分はそのときによって変わるため、出来上がりも毎回異なります。2つとして同じシートはできません。この仕事は急いでできるものでもありません。心を落ち着けて、無心で集中しなくてはなりません。
アルベルト・ヴァレーゼ
エブルの技法
エブルでは、アイスランドのコケ類から作られることもあるゼリー状の高密度の絵の具を水の上に落とします。その絵の具で水面にさまざまな模様を描き、水面に紙をそっと浮かべて紙に絵の具を写し取るという工程を繰り返します。紙1枚あたり5から6の工程が必要です。
ヴィットリオ・パヴァン
写真家&アーキビスト
ヴィットリオ・パヴァンのアーカイブには30万枚を超える写真が保存されています。パヴァンは、そのすべてを永久に保存し、この素晴らしいライブラリー全体を一般に公開することに人生を賭けて取り組んでいます。これらの写真を保存し、カタログ化し、広く利用できるようにするという壮大な仕事は、職人の目と技術に対する深い理解を必要とする複雑で集中的なプロセスです。
ヴィットリオ・パヴァン
お仕事の中でどの工程がお好きですか?
私の仕事の中でもきわめて骨の折れる工程ですが、記録する作品の照明を完璧にすることに大きな満足感を覚えます。暗くて狭い教会の礼拝堂の内部に設置されていたり、表面積がとても大きかったり、アートのある場所が困難な場所であるほど、大きな挑戦になります。
絵画を照らすランプをどこに置くのが適切かを計算すると同時に、反射せず全体に均等に光を当てることは難しい作業です。手に負えない状況で、特注の照明装置を作らなくてはならなかったこともあります。

ジャンパオロ・ファラーニ
シルクスクリーンプリント職人
カンナレージョにあり、ジャンパオロ・ファラーニが経営する大規模なシルクスクリーン印刷工房では、アーティストのアイデアを芸術性と洗練されたエレガンスを備えた手作りの印刷物として生まれ変わらせています。
最初に細心の注意を払って色を選ぶ段階から、特殊な顔料で色合いを微調整する段階まで、印刷の工程は数週間に及ぶことがあります。その期間は、往々にしてベニス独特の気温や湿度条件によって左右されます。

ジャンパオロ・ファラーニ
お仕事の中でどの工程がお好きですか?
私がとてもこだわっている工程は2つあります。とても繊細で複雑なプロセスです。
1つめは色を識別する工程です。アーティストの原画に使われている色を見極め、後の印刷段階で必要になると思われるさまざまな色合や濃淡に分別します。
2つめは色を作る工程です。いつも楽しみながらやっています。的確な色調を得られるまで、印刷用インクにさまざまな顔料を混ぜ合わせなければなりません。

ジャンパオロ・ファラーニ
このお仕事のどのようなところから最もインスピレーションを受けていますか?
確かに、この作品の最大のインスピレーションはアーティストとの繋がりです。アーティストと関係を築くにあたり、この技術の可能性と同時に限界についても説明することは不可欠です。
私は、目の前にいるアーティストの信頼を得なければなりません。誰かの作品に自分の手を加えるということは、とても繊細であり、最大の敬意を持って作業を行わなければなりません。しかし、この関係は両者にとって、実り多いものではないかと思います。